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「………あっ」 「んだよ伊月…ダジャレなら聞かねぇぞ」 「えっ!?ちょっ日向、俺まだ何も言ってねぇのに!?」 「やっぱダジャレなんじゃねぇか…」 「いやこれはさ、なかなか会心の出来だと思うんだよ!」 「そう言って、結局毎回つまんねーじゃねぇか!そうだ、1年に聞いてもらえ1年に!」 「…えー、日向冷てー」 「冷たくて結構。おら、火神来たから!あいつにでも相手してもらえ」 しっしっと手を振られて日向にすげなくあしらわれた伊月は、 「バカ日向」とぼそりと捨て台詞を残すと、言われた通りにちょうど体育館に入って来た火神の元へと歩いて行き、声を掛けた。 そしてどうやら本当に”会心の出来”のダジャレを披露したらしく、 火神の顔には実に分かりやすく『一体どういうリアクションをすれば』という色がありありと浮かんでいる。 さすがの彼でも先輩相手には邪険な態度には出られないらしく、困惑した表情を浮かべているのを見て、 自分で振ったのにも関わらず、日向ははぁっと大きな溜め息をついた。 「…ったく、バカはどっちだっつーの」 「キャプテン、伊月先輩に厳しいですよね」 「うおっ!?おまっ、いつから居た!?」 「さっき、火神くんと一緒に来ました」 いつの間にか日向の隣に立っていた黒子は、いつもの無表情でそう言うと、大きな瞳でじっと日向を見つめた。 「別に、ダジャレくらい聞いてあげてもいいんじゃないですか? 伊月先輩だって、聞いてもらえればある程度それで満足するんでしょうし」 「お前らも他の2年もそうやって甘やかすから、調子に乗って試合中とかでも言いやがんだよあいつは」 「まぁ、あれは確かに最初は驚きましたけど。 あと、火神くん相手に『ダジャレは伝統文化だ!』…って、熱弁振るい始めた時も」 「…んな事言ったのかあのバカは」 「申し訳無いですが…正直、さすがにちょっとだけ引きました」 誰に対してもフラットな態度で接する黒子にまでそう言わせるという事は、 それは日向が耳にでもしていれば、即座に全力で「だアホ!!」と怒鳴っていた様なレベルである事は想像に難くないだろう。 普通にしていれば品のある美形な上、クールで落ち着いた性格も合わせてバスケ部でも指折りのイケメンであるはずの伊月が、 何故か同じクラスの女子にはさっぱりモテない理由が…これだ。 彼と余り接する事の無い他クラスや他校の女子生徒の中には、わざわざ彼を目当てに試合の応援に来る者も居るらしいが、 素の姿を知っている同じクラスの女子たちからすれば、伊月は”ちょっと残念なイケメン”なのだという。 そして当の本人は全く意に介していないのだが、日向は友人として、それを心底もったいないと思っている。 何故あれだけのスペックを、もっと有効活用しないのかと。 黙ってバスケをしていればそれはもうイラッと来る程にモテるのに、それがあの強烈なギャップ1つで台無しなのだから。 それが、伊月のダジャレに対して必要以上にキツい態度に出てしまう理由の、一因なのだ。 彼との付き合いが長いだけに、余計に残念さが目についてしまう。 言わば、愛情の裏返しの様なものだった。 …しかし、最も一番の理由は”彼が言う程面白くはない”という事ではあるのだが。 「つか、最初から見てたんならお前が聞いてやりゃ良かったんじゃね?」 そう言うと、黒子は『何でですか?』とでも言いたそうな顔で、小首を傾げた。 「いえ…何か伊月先輩的には、キャプテンに聞いてもらいたいみたいでしたし」 「俺に?」 「はい。…気付いてなかったんですか?」 「何が」 「伊月先輩、ダジャレ思いついた時にキャプテンが同じ場に居ると、必ず真っ先に言いに行きますよね?」 「………え?」 予想もしていなかった黒子の言葉に、日向は思わずきょとんとした顔をしてしまう。 気付いて、いなかった。 考えてみれば、中学時代も高校に入ってからも、”仲の良い友達”と言えば真っ先に顔が浮かぶのは…伊月だ。 そのくらい2人は常に行動を共にしていたし、以前一度はバスケを諦めた日向がやさぐれていた時期も変わらず傍に居たのは、彼だった。 それにも関わらず、まだ出会って数ヶ月の黒子に指摘されるまで、全くその事に気付かなかったのだ。 というより、昔からずっと伊月は大抵日向の隣に居たので、ダジャレを真っ先に披露されるのは至極当たり前の事だと思っていたし、 何の疑問も抱いた事は無かった。 「………そう、だっけか」 「そうですよ」 「何かもう、それ当たり前だと思ってたからさ。全然意識した事無かったわ…」 「まぁ、そのくらいいつも一緒だって事ですよね。 …でもそういう相手が居るのって、良い事だと思います」 微笑を浮かべてみせた黒子が「あ、伊月先輩戻って来ますよ」と言って、視線を送る。 つられてそちらを見ると、伊月がこちらに歩いて来る所だった。 「じゃ、僕は火神くんの所に戻るので」 「…おう」 それはつまり、”今度はちゃんと伊月の相手をしてやれ”という事だと… そう判断して、日向はほんの少しだけ苦々しげに目を細めつつ、黒子の背中を見送る。 自分が数年掛けて全く気付かなかった事を、僅か数ヶ月で見抜いた彼の観察眼は、さすがと言うべきか。 すれ違い様に黒子と何事か言葉を交わした伊月が、日向の元へ小走りに駆け寄って来た。 「…何だ、火神に振られたのかよ?」 「振られてねぇし!つか、あいついまいちリアクション薄くてさぁ…」 「どうしていいか分かんねぇんだろ、下手にお前が先輩なだけに。つまんねーとも言えなくて」 「ちょっ…日向ひどっ!!」 「………で、何なんだよ」 「え?」 「やっぱ披露したくて、わざわざ戻って来たんじゃねぇのかよ」 小さく溜め息をつきながらそう言うと、伊月は少し驚いた表情を浮かべた。 それはそうだろう、昔からダジャレ絡みでは日向から邪険な扱いばかりされていたのだから。 「え…あぁ、そうだけど…ってか、どうしちゃったんだよ日向…?」 「うっせーな、俺だってたまにはそういう気分になる時もあんだよ」 しかし、たかがダジャレを聞いてやる程度で親友にこんな戸惑った顔をされてしまうと、 今までの自分の態度がいかに酷かったのかというのを改めて思い知らされる様で、何やらいたたまれない気になって来る。 「えっマジで?…つまんねーとか言ったりしない?」 すると伊月が切れ長の瞳を細めて、心底嬉しそうに微笑んだ。 日頃からクールで冷静な彼の、滅多に見せないそんな無邪気な表情に、思わずぎょっとしてしまう。 そして…あろう事か、”可愛い”と思ってしまった。 いくら美形とはいえ、同じ男である、彼を。 『いやいやいや顔キレイだからってそりゃ無ぇだろ!』と、内心自分で自分に突っ込みを入れるが、 心臓の鼓動が変に高鳴ってしまっていて、その事実にもまた、パニックに陥りそうになる。 「あ、あ〜…まぁそりゃ聞いてみねぇと何とも…」 「何だよ結局言うのかよ!」 「いや、だからさ…もう何でもいいからとにかく言ってみろって!」 そうだ、披露してそれで彼の気が済むというのなら、ただ聞くくらいならどうって事は無いではないか。 別に練習中や試合中に言われている訳では無く、今はまだ練習が始まる前なのだ。 それで彼のテンションが上がって練習に集中出来るのなら、むしろキャプテンとしては良い事なのではないか。 必死で理由をこじつけてどうにか煩い鼓動を落ち着かせようとするが、 一度”可愛い”と思ってしまったせいなのか、もう伊月の目線が少し動く程度でもいちいち心臓が反応してしまう。 これは気の迷いだ、滅多に見ない物を見てしまったから動転しているだけだと自分に言い聞かせて、正気を保とうとする。 しようとしたの、だが。 「う〜んじゃあせっかく珍しく日向がノリ良いし、最近の自信作まとめて聞いてもらっちゃおっかな」 そう言って、伊月が再びにっこりと笑顔を浮かべた。 「………っ!?」 咄嗟に、頭を抱えてその場にうずくまりそうになってしまった。 可愛い。本当に、可愛い。 そこら辺に女子高生など山程居るのに、何で男の伊月の方を”可愛い”と思ってしまうのか。 一体、どうしたらいいのか。 もう自分で、自分が本気で分からない。 心臓がおかしいだけでなく、何やら変な汗まで出て来た。 まだアップもしてないのに、身体が妙に熱い。呼吸が苦しい。 何故男の友人の笑顔1つでこんなにテンパっているのか。 思わず『もう勘弁してくれ』と叫びたくなるのを必死で堪え、 それでもとりあえず伊月の相手をしなければと、半ば引きつりかけた笑顔を何とか作り出す。 本当に一時の気の迷いであればいいのだが…もし、そうで無かったとしたら。 この先、自分はどうやって伊月と付き合って行けばいいのか。 煩い程に鳴る胸の鼓動は、未だ静まる気配を見せない。
恋じゃない
恋じゃない 恋なんかじゃ かなり前にノートに書いていて、そのまま放置されていた黒バス日月文を引っ張り出して来ました。 実はこれが、本当に初めて書いた黒バス文になります。元々黒バスの同人にハマったきっかけが日月だったので。 ちなみにどのくらい前のかと言うと、ノートのこの文の前後のページに書かれていたテニスや鰤の文をアップした日付から推測するに、 どう考えても2009年夏頃に書かれた文章です。 3年も放置とか!意味が分からない!! まぁでも、おそらく放置に至った要因はひとえに「何か偽者くさい」という点だったんでしょうね…。 多分、当時の私は伊月先輩を美少女ヒロインか何かと勘違いしてたんでしょうね。 いや、今でも多少そう思ってはいますけども。 |